ドイツのヴァイマール市立歴史資料館の倉庫の片隅に、ボロボロになった羊皮紙の束が無造作に保管されていた。
冒頭にはこう書かれている。
「ここにヴァイマール家の年代記を記す。我が祖先が代々仕えてきた主君の事跡を記録に留めんがためである。」
年代記は1066年、大ブリテン島のヘイスティングスにおいて、征服王ウィリアムが勝利を収めた年に始まる。
ヴァイマール家は、代々ドイツ北部の地ヴァイマールに土着してきた貴族である。1066年における当主はアリボ伯爵。36歳、独身。
ヴァイマールは決して豊かな土地とは言えない。森林の多い未開拓地である。加えて、宮廷に仕官するものは3人しかいなかった。
主君はチューリンゲン公ルードヴィッヒ。チューリンゲン公は直轄地チューリンゲンの他に、隣国ラウジッツを属領としており、計3カ国の支配者である。
チューリンゲン公国の北東にはブランデンブルク公国、北西にはザクソン公国、南東にはマイセン公国、南西には神聖ローマ皇帝の直轄領が広がっていた。