1435年のコンスタンティノス さまざまな心労が彼の自信をぐらつかせている
家族について、少し。
僕は二人の息子を宮廷で躾けている。
第一皇子アレクシオス・パレオロゴス
アレクシオスの穏やかな性格は人々を和ませる。
コペル家のブレニド少年とは特に仲がよく、
遊牧民の生活流儀なんかを教わったりしているようだ。
第二皇子ガブリエル・パレオロゴス
ガブリエルはやんちゃで、すでにガキ大将の風格がある。
将来が楽しみですと武官たちは口をそろえる。
たびかさなる皇妃の不倫
妃ヨアンナについては……。
僕は皇子たちの前では事を荒立てないようにしたい。
いくら放埒でも、子供にとってはたった一人の母親なんだ。
ここにはコペル家とバサラブ家の子供たちもいて、
毎日とてもにぎやかだ。
彼らの教育を命じられた老廷臣たちは
ひいひい言いながら宮殿を走り回っている。
子供たちを眺めながら僕は考えずにはいられなかった。
帝国の継承をどうしたものかと。
皇帝選挙をとりやめて、直系男子継承に切り替える時がきたのかもしれない。
グレブ・バサラブ)実によい狩りでしたな。
ヤクート・コペル)まことに。
アドリアノス)ははは、獲物はそれだけかコンスタンティノス。
コンスタンティノス)伯父様、人前では陛下と呼んでください。
カラ・コペル将軍から教えてもらった鷹狩りが面白い。
僕はよく狩りに出かけるようになった。
エピロス専制公アドリアノス・パレオロゴス テオドロス3世の子
狩りを通じて友人が増えた。
中でも帝国最古参の大公アドリアノスは僕を強力に支えてくれた。
僕はその返礼として、アドリアノス伯父にかけられていた
庶子の疑いを完全に晴らした。
アドリアノスの出生疑惑晴れる
そのアドリアノス伯父が、
どうしても僕に会わせたい人間がいるという。
ダヴィド)久しぶりだね、コンスタンティノス。
僕は渋い顔をしていたに違いない。
凱旋のあと、ダヴィドを暗殺しようとして2回も失敗。
以後近づかないようにしていた。
何か、用。
今日はあらためて君に忠誠を誓いにきた。
勘違いするなよ。僕は君のことが大嫌いだ。でも皇帝には従う。
「敵」でありながら「忠臣」となったトラケシア専制公ダヴィド
アドリアノス伯父は言った。
ダヴィドを受け入れろと。
お前のことを一番よく理解しているパレオロゴスなのだからと。
さらに、皇子アレクシオスとガブリエルは帝国を継承するには幼すぎる、と言われた。
いま継承法を変更するのは危険すぎるとも。
新マケドニア公ゼノビオスが叛意をあらわに 父デメトリオス謀殺の経緯が知られたか
帝国に不穏な空気が広がっているのが見えないか。
お前はやりすぎたのだよ、コンスタンティノス。
僕はやりすぎたんだろうか。
僕はただ、僕の帝国を守りたかっただけなんだ。
結局コンスタンティノスは継承法を男子継承に変更できず、 皇子成人までの仮後継者としてダヴィドを受け入れた
1435年8月、妃ヨアンナにまた不倫の噂が立った。
これで何度目だろう。
僕はそろそろ彼女に疲れ始めていた。
翌年3月、僕らの関係はふたたび決定的な危機を迎えた。
対立が公にならないためには2460万ノミスマという大金を要する。
数年前にはさっと払えた金額が、今は厳しい。
でも僕はヴェネツィア人に巨額の借金をしてまで、そのつらい出費をまかなった。
すべては子供たちのためだ……。
しばらくしてロマン・バサラブが僕を尋ねてきた。
ミカエル某との決闘の許しがほしいという。
なんでも、さる貴婦人の名誉が傷つけられたとか。
ロマン・バサラブは優秀な帝国軍人だ。
怪我なんかされたら困るから、僕は決闘を許さなかった。
食い下がってくる彼に僕はこう言った。
ところでバサラブはずいぶん妃と仲がいいようだね?
全部わかっているんだ。
立ち去って、僕にこれ以上恥をかかせないでくれ。
ロマン・バサラブは真っ青になって謁見室を退出した。
しばらくして報告が入った。
妃ヨアンナがロマン・バサラブに興味をなくした、という。
振ったつもりでロマンに振られたんだろう。
やれやれだ。
1436年秋、ヴィディン公ヤロスラフ・バサラブが死んだ。
第一継承者はグレブ・バサラブで、
10年務めた帝都総主教を辞めてセルビア王国に行くことになった。
僕はこれまでの苦労をねぎらって、別れの宴を催した。
再征服した帝国領で改宗が進んだのはグレブのおかげだ。
新征服地にて改宗進む 赤枠は帝国、ブルガリア、セルビア、グルジアをあわせた範囲
わたしがいなくなると後が心配ですね。
失礼だな。なんとかやっていくよ。
グレブの後任はなかなか決まらなかった。
その隙をつくかのように、グルジアで大きな叛乱が起きた。
1436年11月、カルトリ女公アサがグルジア王に叛逆
トゥグリル朝から自立したシーラージ将軍の名声は大きく、
その娘アサはグルジアの過半を実質的に支配していた。
それがまるごと叛逆した。
イグナティオスは急襲を受け、重傷を負ったそうだ。
僕の責任だ。
シーラージ家の勢力をもっと削っておくべきだったんだ。
ソフィア・ダルマニャック)敵の進撃は速やかで、王都の陥落も懸念されます。
トレビゾンド公とパフラゴニア公に召集をかけよ!
艦隊は使えるか。僕も出撃する。
僕はセルビア騎兵11000を率いて黒海を渡った。
グリアに上陸し、背後から敵の本拠地カルトリを突く。
血が騒ぐ。
ひさびさに握る、剣の重みがたまらない。
ここには帝国運営の重圧もないし、家中のごたごたもない。
何も考えずにこうして馬を駆けさせるのは、たとえようもなく素晴しい。
敵の戦列を視界にとらえた。
僕は剣を高くかかげ、セルビア人たちと共に大喚声をあげて突撃する。
1437年12月8日 コンスタンティノス11世、グルジアにて戦死
選挙法継承により、トラケシア専制公ダヴィドが帝位を継承する