辺境の、くだらない意地の張り合いじゃないの?
ルイ・ダンジュー)先週、おたくの猟師組がアンジュー領で狩りをしたようだが。
ボジダル・コトロマニク)は? 知らないね。それよりこないだの件について釈明したまえ。
口をわきまえろ、田舎王。公と同格のくせに。
ルイ・ダンジュー。君は僕を怒らせたようだ……!
知れば知るほど仲が悪くなる隣人っていうのがいるけど、
ボスニア王ボジダルと両シシリー王ルイはまさにそういう関係だった。
僕ならそんな連中は放っておくけどね。
アレクシオス)いかなる場合も、セルビア王は臣下と共に戦う。
ああ、やっちゃった。
アレクシオスはセルビア王国のすべての貴族に召集をかけた。
わかるね。
もはや辺境の小競り合いじゃない。
アンジュー家とパレオロゴス家の戦争になってしまった。
ビュレンド・コペル)我が友アレクシオスが攻撃にさらされています。
義兄上、なぜすぐ援軍を送らないのです。
友情万歳。
僕はしかたなく中央軍25000に召集をかけた。
皇帝はめんどくさい。
この戦争からは何も期待できない。
ルイ・ダンジューが有する称号は無数にあるが、
僕がローマ皇帝として彼に要求できる称号はひとつもない。
せめて簒奪できないかと思ったら——
伯号の簒奪に要する威信:1800前後
王号の簒奪に要する威信:49000
マヌエル2世の威信 : 2633
何も期待できない!
ギュネス・コペル)お怪我なさってませんか。食べ物は口に合いますか。
バシレイオスはよちよち歩きができるようになりました。
バシレイオスは陛下にそっくりです。でも目元は母親似かも。
頑張ってね。
1447年7月、僕は中央軍を率いてセルビア・ハンガリー国境へ向かった。
皇帝のやる気のなさが伝わったのか、
兵士たちの戦意は非常に低い。
ドナウとその支流を何度渡ったことやら。
僕はもう一生ハンガリーから帰れないんじゃないかと思い始めた。
よくない知らせだ。
アルメニア王ビュレンド・コペルがいくさの傷を悪くして死んだ。
タオ領をめぐるグルジア王イグナティオスとの戦いは
うわさ以上に厳しいものだったようだ。
ビュレンドは子を残すひまもなかった。
王位を継承したのは彼の甥バシレイオス・パレオロゴス。
そう、まだ1歳にしかならない僕の息子だ。
もちろん現地へバシレイオスをやるわけにはいかない。
僕が摂政として後見すべきだ。それはわかってる。
でも、一瞬たりとも手を離せないんだ。
ここは前線。
戦役に出たことのある人はわかってくれると思うけど、
あんまり戦いが激しくなってくると、難しいことを考えられなくなる。
ああ、そうだ。ガブリエルがいるじゃないか。
アルメニアは彼にまかせよう!
冬が来て、春が来て、夏になった。
僕はまだドナウの岸辺で戦っている。
ヤクート・コペル)'''イタリア派遣軍より報告。
要衝バリを抑え、王都サレルノへ進撃中。'''
アプリア公位(威信1000)簒奪によってリーズナブルに2伯を臣従させた
だが北伊からの援軍で敵の戦力が増している。
冬までバリを確保できる見込みがない。早期休戦を。
宰相ガブリエル)よく聞いてくれマヌエル。
帝国は叛乱によってイェルサレムを失った。
そしてアルメニアはもはや崩壊状態だ。
幼王バシレイオスに対するアルメニア諸侯の反発は強かった
すぐに帰ってきてくれ。僕だけじゃ抑えきれない。
アレクシオス)もう充分だ、マヌエル。
何をいう。皇帝は臣下を残して退却したりしない!
いいんだ。あとは僕らにまかせろ。君は東方へ戻りたまえ。
アレクシオスは僕を説き伏せた。
僕はルイ・ダンジューと和議を結び、東部国境へ馬を走らせた。
9ヶ月後、アレクシオスはセーケシュフェヘルバルの平原で
両シシリー王国軍主力に決戦を挑んだ。
そして見事勝利し、ルイ・ダンジューから白紙和平を勝ち取った。
さらに1450年7月、女王アナスタシアの死によってブルガリアを相続。
ブルガリア=セルビア王として帝国西方の強力な盾となった。
アレクシオスは立派なパレオロゴスだ。
彼を心のどこかで軽んじていたことを、僕は恥ずかしく思う。
僕はアルメニアを放棄せざるをえなかった。
イグナティオス・パレオロゴスのせいだ。
彼はバシレイオスから離反した諸侯を誘って領地を拡げている。
くそっ。
ビュレンドの死も、元はといえばあいつのせいじゃないか。
離反諸侯はあくまでアルメニア王臣だ。
僕に懲罰の権限はない。無理に手出しをしようにも、
アンジュー戦争でバリ領を強奪したことで僕の威信は減少している。
行っても何もできないってことだ。
だからパレスティナへ行った。
1449年5月、僕はパレスティナ一帯を制圧し、
ふたたびイェルサレムに入城した。
蜂起の首謀者、イェルサレム公アンニバレは
家令フェリシタ・デッラ=スカラの弟だ。
モンフェラート・パレオロゴスの血統に免じて、
アンニバレにはもう一度チャンスを与えることにした。
ところがだ。その舌の根もかわかぬ1450年の冬、
アンニバレはまたしても帝国に叛旗をひるがえした。
ラテン貴族、ローマカトリック、遠隔地領土と三拍子そろってしまった
もう我慢できない。妃よ、すまないがまた外征だ。
……はい、陛下! お体だけは気をつけてくださいね。
それと、もし男の子だったらバイバルスって名付ける約束忘れないでね。
僕はギュネスの言葉なんか耳に入らないくらい激怒していた。
みずから軍を率いて海を渡り、津波のようにパレスティナを襲った。
そして1451年4月4日、イェルサレムへ三たび入城した。
アンニバレ、覚悟はできているだろうな。
僕を排除できるのか? やってみろよ。
姉様は帝国の金庫番だし、母様は密偵頭なんだぞ?
「ソフィア・ダルマニャック、4人の皇帝にお仕えしてまいりました」
ところが、ダルマニャックは僕以上に激怒していた。
アンニバレはこっぴどく叱られたあとで、
ひそかにジェノバ共和国へ逃がしてもらったとかなんとか。
帝都へもどる途中、空の色がおかしかった。
僕は不吉な予感におそわれて船着き場の階段を駆け上がり、
ブラケルナエ宮殿へ急いだ。
ギュネスはもういなかった。
ついさっき、緋色の間で5回目の出産に臨み、
そして亡くなったのだとガブリエルとフェリシタから聞いた。
マヌエル、しっかりしろ。
君は皇帝だぞ。帝国がその肩にかかってるんだ。
帝国なんかいらない。
ギュネスを僕に返してくれ。
1451年8月 皇妃ギュネス・コペル死亡
終章